紙をめぐる話|コレクション No.01

光を封じ込めた
写真集のデザイン
“THE AMERICANS
81 Contact sheets”

黄金時代のアメリカに生きる人々を撮影した
ロバート・フランクの名写真集
『THE AMERICANS』。
ワシントンのナショナルギャラリーに
写真家本人より寄贈されたそのコンタクトシートを
印刷で再現したのが、
本書『THE AMERICANS 81 Contact Sheets』。
写真家が見た世界と、
選んだ写真―コンタクトシートには、
当時の温度、光の分布、人びとの息づかい、
街角の匂い…までもが陰影をおびてつまっている。
グラフィックデザイナー杉浦康平は、
「ここには、溶け出した
時間ともいうべきものが漂っている」という。
すでに褪色したコンタクトシートの魅力を
あますところなく再現したのは、
フランクの写真集を3冊手がけ、
写真のもつ光と闇の魅力を熟知した
杉浦のデザイン(佐藤篤司が協力)と、
黒の再現に並々ならぬ熱意を傾けた
印刷会社・博進堂の技術である。

デザイナーの話
杉浦康平さん(グラフィックデザイナー)

 写真は光の芸術。美篶堂の製本による黒いタトウは、作品誕生以前の「闇」を象徴するものです。花が開くようなしなやかさで、印画紙上に定着する光の誕生を予告しています。星条旗の星をモチーフにして刻みとられた光る紙は、「スタードリーム」。コンタクトシートとは、そもそも、写真家の個人的な作業に必要なシークレット・コードのようなもの。だが今回は読者にも理解しうる画面となるように、被写体が認識しうる程度にシートを拡大し、コンタクトに封じこめられた光の粒子を際立たせるよう工夫し、デザインしました。写真集のデザインで最も気を使わなければならないのは、黒の階調の再現です。印画紙の黒をそのまま、印刷で再現することはできません。印画紙がもつ黒の中の黒、白の中の白をいかに印刷で再現しうるのかは、階調を読み解く製版担当者の「入魂の感性」といったものに左右されます。印刷を担当した博進堂の熱意で何度もテストを重ねながら、一年半、どの写真集よりも深い黒の色調の、フランクらしい光のドラマを再現することができました。 
 

製版担当者の話
笹山義浩さん(博進堂 企画制作部 スキャナ チーフ)

500本のフィルムに焼きつけられた81枚のコンタクトシートがナショナルギャラリーに寄贈されたときにはすでに褪色してセピア色になっていたようです。私たちの手元には、RGBデータとして届きました。それをまずトリプルトーン(グレー、黒2色)に分版し、さらにフランクがつけた赤と黄色のダーマトグラフの色を上に乗せています。トリプルトーンのグレーは中間色からハイライトまでの階調を出すのに非常に重要な版です。インキは博進堂が独自の調整をしたもので、シートの全体にひいているものと同じです。黒2色のうち1色は、私たちが「骨版」と呼んでいるもので、「真に黒い部分」を表現するための版です。杉浦先生はまず黒の強さを、と言われたので、一番真っ黒なところをあげて調整し、1%刻みで調整していきました。また、シートの露光の極端な違いは1コマずつ露光調整しています。オリジナルから1.5倍に拡大するために生じるボケをシャープにし、拡大の際にどうしても生じてしまうピンホールも、丹念にひとつひとつつぶしていきました。紙裏が白では印刷物に見えてしまうという杉浦先生のご指示で、一枚ごとの存在を際立たせるために、シートの裏にもグレーを全面印刷してありますが、表はツヤニス、裏にはマットニスがひいてあります。81枚のグレーの調子をすべて揃えるのにも苦労しました。私どもはモノクロ印刷の粋を極めるためにトリプルトーンを研究していたのですが、その過程でこの写真集を手がけることができ、さらに杉浦先生の細かいご指示で細部に渡って、技術を磨くことができました。今後もこれを活かして、最高のモノクロ印刷に挑戦していきたいと思っています。