紙をめぐる話|コレクション No.04

不思議な陰翳をもつ
『クライスター・パピア』
Kleisterpapier

不思議な遠近感をもった表紙の模様は
「クライスター・パピア(Kleisterpapier)」
を撮影したもの。
クライスター・パピアとは、
南ドイツを起源とする中世の紙染め技法と
その技法で染められた紙のことを言います。
耐久性と装飾を兼ね備えた紙の加工法として、
17世紀にドイツやイタリアで盛んにつくられ、
その後ヨーロッパ各地、アメリカへと
広がっていったそうです。
竹尾のファインペーパーも
クライスター・パピアに使いますよ、と語るのは、
双子の姉妹ユニット「ツヴィリンゲ」。
日本で唯一、クライスター・パピアの
プロダクトをつくっているおふたりです。

初出:PAPER'S No.35 2010 夏号
※内容は初出時のまま掲載しています

制作者の話 
ツヴィリンゲ(寺園直子さん、森住香さん)

以前ドイツへ留学した際は、手製本の勉強の一環として紙を染める技術を学びました。クライスター・パピアやマーブル染め、コート紙を染める技術などです。帰国後、クライスター・パピアを染めるのに最初に求めた材料が紙です。ドイツで使っていた紙に近い、表面にレイドや質感のある紙の中から、ふっくらと嵩があって柔らかい100kg前後の厚みのものを選びました。実際には、使ってみなければクライスター・パピアに適しているかを判断するのは難しかったです。竹尾の紙はいろいろと試していて、ストラスモアライティングレイドベルクール……NTラシャも染めやすいですね。水を使うので、なるべく伸びの少ないものが良いのですが、水を含んで伸びている状態であっても破れにくい、丈夫な洋紙が向いています。グムンドカシミアも染めやすい紙のひとつです。基本的に非塗工紙ならどれも染められますが、私たちはレイドが入っている紙を気に入って使っています。レイドが横に入っているために、交差する縦の刷毛目がきれいに出るからです。また、糊も良くのります。私たちは、幼い頃から文房具が大好きでしたので、クライスター・パピアを製本用にだけでなく、箱やノート、ホルダーなどの文房具に生かし、広げたいと考えました。寺園が加工、森住が染めと分担することが増えてきましたが、紙染めは二人でする方が楽しいです。今春から発売されているタンゴの巨匠ピアソラのクリスタルCDは、外側の箱をツヴィリンゲがつくっています。これからも機能的で美しいプロダクトをつくり続けていきたいですね。

 

クライスター・パピアの話 
ツヴィリンゲ(寺園直子さん)

クライスターは糊、パピアは紙という意味です。クライスター・パピアは、書物の表紙や見返しだけでなく、壁紙、クローゼット、箱の内張りにも使われ、16世紀から18世紀にかけて、ヨーロッパの製本工房や紙染めの工房でつくられていました。紙染めを産業として行っている修道院などもあったようです。現在でも手製本などの工芸に携わる方や、書物修復家などがクライスター・パピアをつくっています。18世紀に染められた紙が最高レベルとされており、その特徴は、1色で染められていること、櫛、指、スタンプ、ローラーなどさまざまな道具を使っていること、模様に一定のリズムがあることです。基本的な工程は、紙に水を含ませ、絵具を入れた糊を紙に塗って乾かす、というものです。乾くと糊は平らになり、模様の立体感はそのままに、できあがった紙の表面は滑らかです。糊は正麩糊を鍋で煮てつくっています。この糊に絵具を混ぜて、色糊をつくるのです。絵具は水溶性であれば何でも使用できます。色糊をつくったら、水を含ませた紙の上に色糊をのせ、さまざまな道具を使って模様をつくります。指や爪などを使ってもおもしろいですね。いまひとつかな、と思ったら、すぐに直すことができるのも、クライスター・パピアの良いところです。一度に何枚もの紙を染めるため、作業の工程を効率よく無駄なく、そして気持ちよく行えるような工夫をしています。アクリル板の上で作業することや、台を拭くスポンジ、紙の乾かし方もそのひとつです。クライスター・パピアは絵のように飾ることもできますが、本や箱の材料として使った時に真価があらわれる紙でもあります。ですから、この紙を使ってどのようなものをつくるかということを私たちは大切に考えているのです。