紙をめぐる話|コレクション No.05

光と空気が
織りなすかたち
『空気の器』

極細のワイヤーでできているかのようなこの器は、
実は一枚の紙が立体化したもの。
紙に無数の切り込みを入れたことで、
広げれば張りと強度で自立します。
また紙の柔らかさから、ぐにゃっと変形できたり、
見る角度によって表情も変わる驚きのプロダクト。
おなじみの蛍光カラーからぐっとかわって
白い紙「ルミネッセンス」を使った新作は、
ふんわりとした器の存在感をより引き立てています。

初出:PAPER'S No.36 2010 秋号
※内容は初出時のまま掲載しています

デザイナーの話
鈴野浩一さん(建築家 株式会社トラフ建築設計事務所代表)

「空気の器」は、二次元である一枚の紙を、建築のような三次元のものへ転換できたら面白いのでは?というところから発想しています。制作するにあたっては、円形の紙の同心円上に切り込みを入れ、それを広げると紙の強度で自立できるような構造を考えました。たくさん試作しましたが、当然カットはすべて手作業。初めは一枚に5、6時間かかりました。抜き型ができてからは、さまざまな紙で抜いてもらったんです。第一弾の製品は、「かみの工作所」の展覧会コンセプトに合った蛍光色の紙で器をつくりました。実はその段階でも白い器をつくりたかったのですが、納得のいくものができなかったんです。改めて「白い器をつくろう」と決心したのは、ルミネッセンスに出会ってから。究極の白い紙として開発されたことを知り、「それならばやりたい!」と思ったんです。色鮮やかな器もいいですが、白い器は、この透き通るような器の存在感と相まって、そのままの姿でも美しいんですね。また、創造力を刺激されるところも面白いと思っています。例えば白い紙なら、子供たちに自由に絵を描いてもらい、それを自分だけの器として楽しんでもらえますよね。そういった子供たちとのワークショップをあちこちで開いています。また、9月に青山のスパイラルで発表した新作展示では、白い紙への印刷にも挑戦してみました。さまざまな模様を印刷してみると、広げて器にしたときに驚くような効果が生まれてきます。そんなふうに、この白い器をキャンバスとして楽しめる可能性もまだまだ試してみたいですね。

製造・販売担当者の話
山田明良さん(福永紙工株式会社 代表取締役 製造ディレクション)

デザインプロデューサーの萩原修さんとの出会いから、紙の加工会社がデザイナーと組むという初めての試みが生まれ、これまでさまざまな紙の商品をつくってきました。それが「かみの工作所」です。始めてみると楽しくて仕方なく、デザイナーさんの創造力に驚きと嬉しさを感じています。もちろん、現場では試行錯誤の繰り返し。「空気の器」に対しても、はじめは現場の職人たちも難色を示していました。その中で一番苦戦したのは型抜きです。使用した刃は「ピナクル刃」と呼ばれる、薄い紙の抜きに適した刃。しかし薄い紙はこしが弱く、さらに型の刃と刃の間隔が0.9mmという緻密な構造だったこともあり、静電気のせいで紙が刃にくっついてしまったんです。「かみの工作所」の展覧会に向けての数を用意するだけならまだしも、大量生産をすることなど考えられませんでしたね。ですが、そこから刃を材質から見直したり、工場内の床を水浸しにして静電気対策をしたりして、刃が紙からすっと抜けるように改善したんです。実は、今回白い器を作るにあたっては、鈴野さんの提案でトレーシングペーパーも検討したんですが、やはり紙が堅くて抜けなかったんですね。けれど、そのように意欲的に取り組んでいただけるのは嬉しいですし、ご自身も積極的に宣伝してくださったり、さらなる展開も考えてくださっていますので、「空気の器」をもっとたくさんの方に親しんでもらえたらと思います。