紙をめぐる話|コレクション No.14

パルプの
官能的なふくらみ
PIERRE HERMÉ PARIS
“ISPAHAN”

繋ぎ目のないなめらかな曲線のフォルムと
繊細な白のテクスチャーが特徴のこのデザインは、
ピエール・エルメの代表作、
イスパハンのパッケージです。
ホイップクリームのようなかたち、
生地を指で押したようなかたち、
そして丸く膨らんだシンプルな張りのあるかたち。
3種類の形状を持つパッケージが、
いずれもイスパハンを柔らかく包みこんでいます。

初出:PAPER'S No.45 2013 冬号
※内容は初出時のまま掲載しています

アートディレクターの話
原 研哉さん(デザイナー)

手の造形である。モールド製法で自分らしいかたちをつくってみたいと考えていたところにパリから依頼が来た。パティスリー界のピカソと称される天才的な菓子職人と、パッケージを通してコラボしてほしいという。薔薇の花弁をのせた赤いケーキ『イスパハン』は特別に重要なケーキらしいが、自分もこれに魅入られて専用の容器を提案した。原形は粘土で制作。紙粘土をこねて納得できるところまで仕上げ、最後は紙やすりで磨いていく。全ては指先が決めていく。直感的かつ官能的な仕事である。最初にホイップクリームのようなかたちが出来、そこから凹んだものとドーム型が派生した。全部つくりたいという提案が快諾されて実現に至った。原型を図面に落とし、抜きに適した角度を微調整し、プロダクツとして仕上げるのにスタッフや製造者の手を煩わせた。スタッキングも可能。小さな和紙ラベルは片方耳付きの和紙で、ここに貼られる小さな丸いシールが封印となる。

 

パティシエの話
ピエール・エルメさん(PIERRE HERMÉ PARIS)

「イスパハン」は私のクリエーションの象徴的な作品で、私自身も大好きなケーキです。そして「一生に一度は食べてもらいたい味覚」であり、イスパハンを通して「大切な人と“味覚・感性・歓喜の世界”を分かち合って欲しい」と願っています。そんな思い入れのあるケーキのパッケージであること、あくまでケーキが主役であること、中に入っているものを想起させるような質感とフォルムに仕上げること、私から原さんに要望したのはその3つだけ。私は原さんの作品に深く共感する部分があるので、あとは彼の創造力にお任せしました。完成品を見て感じたのは、原さんらしい「白」の使い方で、必要不可欠なものだけでデザインされた無駄のない美しいフォルムだということ。また、柔らかなパルプの質感が、しっとりとした高級感を生んでいると思いました。フランスのバレンタインでは、男女を問わず大切な人とお互いに贈り物を交換します。イスパハンをこの特別なパッケージに入れて贈ることで、大切な人と歓びを分かち合う特別な体験をして欲しいと思います。