紙をめぐる話|コレクション No.21

図録から躍り出る光
土田康彦『運命の交差点』

13世紀発祥とされるヴェネツィアンガラスの本場、
イタリア・ムラノ島に工房を持つ唯一の日本人、
土田康彦さん。その初の作品集『運命の交差点』が
2015年に刊行されました。特筆すべきは200部限定で
発売された特装版。本を台座に見立て、まばゆい光を放つ
ガラス玉を鎮座させた豪華絢爛なつくりには、
思わず目を惹かれます。
ガラスならではの輝きや立体感を紙面上で鮮やかに
再現したエアラスの表現力にも注目です。

初出:PAPER'S No.52 2016 夏号
※内容は初出時のまま掲載しています

デザイナーの話
勝井三雄さん(グラフィックデザイナー)

波のように連なった溝の立体感や透明感、何より色鮮やかな光が土田さんの作品の醍醐味です。その本質に直接触れてもらおうと、作品の原型である成形前のガラス玉を本に配しました。表紙にはガラス玉の台座となる円形を抜き、穴からのぞく見返しには金箔を貼り付けています。ガラスを通った光が金箔に反射し、色彩豊かな作品に陽光を放つ仕掛けです。一方、苦心したのが本紙の写真。ガラス作品は写真に撮ると細部がうまく再現されず、平面的になってしまうことが多い。ガラス本来の輝きを際立たせるために、重要な役割を果たしたのが特装版の本文紙に選んだエアラスでした。普及版と比較するとその差がよく分かりますが、特装版はガラスの光が生き生きしている。光以外にも、手彫りの迫力を感じさせる溝のえぐれや漆黒のように深い背景の黒など、表現の質が飛び抜けて高い。エアラスはインキのノリや馴染みの力が強く、再現性が非常に緻密なので、まさに図録のための紙といっても過言ではないと思いました。完成品を見た土田さんもその撮影と印刷の再現力に驚かれていましたね。作品が持つ魅力を極限まで引き出す一冊になったと思います。

上:エアラス(特装版) 下:一般コート紙(普及版)

印刷担当者の話
熊倉桂三さん(株式会社山田写真製版所 取締役 技術開発室長 プリンティングアーツディレクター)

透明感がありながら立体感もある土田さんの作品を印刷でどう再現するか。少々頭を悩ませましたが、高井哲朗さんの写真が素晴らしかったこともあり、印刷はそこにプラスアルファするだけで済みましたね。色彩表現を豊かにするためにカレイドインキを採用し、4色+マットニスで刷っています。本文に選んだエアラスは開発段階より携わらせていただき、最初に使ったのがこの『運命の交差点』でした。注目してほしいのがハイライトの部分。エアラスの紙の白さが作品の立体感を引き立て、色の鮮やかさを際立たせています。版と濃度が全く同じ条件でも、紙によって表現力が劇的に変わることがよくわかると思います。また本の背や小口にも特長が現れています。通常なら背にノリの材質が残ってパリパリになるところ、エアラスは中に含んだ空気がそれを吸い込むのできれいに仕上がりました。ただ、天と地と小口の黒を背のクロスの色に合わせるのには苦労しましたね。普通に黒を塗ってもグレーになるので、一度塗りと二度塗りで少しずつインキと顔料の調合を変えてようやく色を一致させたんです。最終的には、まさに勝井ワールドといえる世界感と土田さんの魅力が色鮮やかに調和した図録ができたと感じています。