紙をめぐる話|コレクション No.27

紙の未来を照らすライト
PAPER TORCH

くるくる巻くだけで懐中電灯になる紙「PAPER TORCH」
魔法のような機能にも目を見張りますが、
さらに驚くのは、先進技術を取り入れた
革新的な製品でありながら、従来の紙の印刷プロセスと
変わらない方法でつくられていること。
その明るい光の先には、これからの紙や印刷が目指すべき
ひとつの道が照らし出されていました。

初出:PAPER'S No.58 2018 秋号

デザイナーの話
佐藤オオキさん(有限会社 nendo)

紙やフィルム、布などに銀粒子を使ったインク※ をプリントすることで電子基板を作れるというエレファンテック社の技術を活用してデザインした懐中電灯が 「PAPER TORCH」です。様々な紙で検証を行った結果、素材には選挙の投票用紙にも使われる合成紙のユポを使用することにしました。ユポはインク乗りが良く、表面が平滑なため少ない力でキレイに丸められる上、伸ばした際にクセがつきにくいのが特徴です。丈夫で耐水性もあるため、工業製品にも適しています。紙の両側にプリントする電子回路には、市松模様のデザイン処理を施し、ボタン電池2個とLED7個を導電性のある接着剤で接着。LEDの経路の距離を、紙の巻き加減で調整することで抵抗値を変化させ、調光ができるようにしました。 経路の距離が長いほど抵抗値が高くなり、反対に距離が短いと抵抗値が下がることから、紙をゆったりと巻くと弱く、きつく巻くと強くなります。さらにLEDが紙に触れると色が変わることから、LEDを接着している表面を上にして巻くとオレンジ色の暖かい光に、裏面を上にして巻くと白い光になるといった、2種類の色温度の変化を楽しむことも可能となりました。将来的には、非常用・防災用など、さまざまな用途に活用することが可能だと考えられます。 電子基板を内部に隠蔽するのではなく、プリント基板として一体的にデザイン処理できたからこそ実現したデザインとなりました。

※導電性金属インクのこと。
 銀を中心とした導電性の粒子を含み、
 印刷した部分に電気を通すことができる。

 

製造担当者の話
杉本雅明さん(エレファンテック株式会社 取締役副社長)

最初は無理だろうと感じたんです。企画書には技術的な制約を超えた提案がたくさんあって、とても実現できそうにない。そもそも紙を巻いたら懐中電灯になるなんて、まるでドラえもんのひみつ道具じゃないかと。試しに様々なプロトタイプをつくってみましたが、本当に形になるのか半信半疑でした。ところがある日、nendoさんから送られてきたスケッチを見て、もやもやが一気に晴れたんです。それが市松模様のデザインでした。何より驚いたのは、回路を剥き出しにしながら、それが回路だと意識させないこと。回路の構成要素は保ちつつ、回路形状を市松模様にすることで、機能と意匠を一体化させている。デザイン史に残るエポックメイキングなことだと感じました。とはいえ技術的には難題の山。例えば、ユポに銀インクがのった後、どのように強く定着させるかは悩みの種でした。銀インクの下に透明なレイヤーを引くことで解決できましたが、その他にも無数の試行錯誤が必要でした。一方、今回の開発では、紙にインクをのせるという印刷工程そのものは従来と変わっていません。同じつくり方でも、出口を変えることで老舗の力を最先端に変えているんです。文字や絵を刷るという既成概念から離れ、多様な素材をのせていく創造のプロセスだと捉え直すと、紙と印刷は未来になっていきます。そんな発想の飛躍を繰り返してきた企業だけがこれまで生き残ってきたはずですし、きっとこれからもそうでしょう。「PAPER TORCH」がそのトライアルの一助になれば嬉しいです。

電子回路図