紙をめぐる話|紙について話そう。 No.07
安積朋子
プロダクトデザイナー
平林奈緒美
 アートディレクター、
グラフィックデザイナー

グラフィックとプロダクト。
長きにわたってそれぞれのかたちで
紙と関わりを持つふたりが
今回は好きな紙モノの話に
花を咲かせました。

2011年5月18日

初出:PAPER'S No.38 2011 夏号
※内容は初出時のまま掲載しています

安積朋子・平林奈緒美

安積 小さい頃から紙は大好きなんですよ。昔はお買い物に行くと、ビニール袋でなく紙袋がもらえたでしょう? ザラ紙で、上がギジギジになっている。あの紙袋の匂いが好きだったんです。だから私の原点はあのザラ紙かな。紙袋に穴を空けて頭から被ったり、紐を付けたり。だから匂いを嗅いでいるんですけど(笑)。あとは足に履いて、がしがしわさわさ音を立てながら歩くのが大好きだった。
平林 私も小さい頃から紙好きでしたけど、なんだかちょっと違う(笑)。そういうのが今の仕事にも表れるんですかね。安積さんは匂いとか、肌身みたいな感じで紙を見ていて……。
安積 辞書も匂いで選んでましたね。
平林 ああ、辞書はね、わかります、わかります。そうでした。

本当に可愛いものは 税務署や区役所にある。

平林 おばがハイカラな人で、小さい頃、彼女が広尾の明治屋などへ行くときは時々一緒に連れていってもらっていたんです。そこでアメリカのヌガーみたいなものを買うと、包み紙に女の子の絵柄とかが印刷してあったんですよ。今考えるとたぶん蝋引きしていたんでしょうね。今の蝋引きより粗悪でしたけど、そういう紙は当時の日本になかったし、その印刷の感じがすごく可愛くって。そういう紙を私はコレクションしていましたね。
安積 私も紙は捨てないですね。どんな小さなピースでも。あの、封筒の内側の薄い紙に、模様が刷ってあったりしますよね。
平林 ああ、私あれ大好きです! 捨てられないです。中の手紙が透けないようにするやつですよね?
安積 そう!私、切手を集めているんですけど、使用済みの切手を切り取った裏側に可愛らしい紙がついていたりすると、その小さな紙片が捨てられなくて。自分は家具をデザインしたりしているけど、最近では実は紙のほうが好きなんじゃないかと思いはじめましたね。もともと模型も好きなんです。インテリアの仕事をするときも、まずは1/25の模型で空間を構成しますね。それから必要な部分は1/10、1/5、という具合にスケールを大きくして、最後1/1にするんです。そうやって平面を立体に起こしたりするのに、たまらなくわくわくしますね。最近「立版古(たてばんこ)」とか「組み上げ灯籠」と呼ばれる紙のおもちゃを見つけたんです。江戸時代の末期から明治、大正にかけてつくられていた、木版画で刷られたパーツを自分で切り抜いて立体に組み立てて遊ぶおもちゃなのですが、それがすごく面白くて。私の中で平面は立体とつながっています。紙袋も、自分が中に入るのがいちばん楽しかった。
平林 なるほど。私は完全に平面なんですよね。やっぱり職業柄、質感やインキののり方を見ちゃいます。今考えると昔から集めていた紙も、まっさらというよりはインキがのったものが多かったかもしれない。海外に行くと、紙袋の口のところに「5番」みたいなサイズを表す号数なんかがスタンプしてあったりするじゃないですか。そういうところが好きです。集めたものはもったいなくて絶対に使えないですね(笑)。
安積 じゃあそれをたまに取り出して、「うっとり」って眺めるんですか。
平林 そうですね。年に一度、お正月に、集めたものをファイルに分類するのが好きで。
安積 ああ!すっごくわかります。私も大好き。飽きないですよね。
平林 あとは、必ずどこの国に行っても銀行に行きますね。銀行って、中にお札が入っているかいないかわかるように穴が空いた、オリジナルの2色刷りの封筒が置いてありますよね。それがすごく可愛い。郵便局の封筒なんかはおしゃれ女子の間で流行っていて皆が行くみたいなんですけど、銀行や区役所に行かないと、本当の可愛いものはないんですよ(笑)。税務署とか区役所はもう絶対的なんです。区役所に行くと、アプリケーション(申請書類)がたくさんありますよね。そのフォントや組みが可愛いし、複写の紙の具合も国によって違うので、フロアをぐるっと一周してあれこれ入手してくるんです。
安積 すごーい、税務署!それで持って帰ったのをお正月に分類するんですね。楽しいなあ、それも(笑)。

 

現場で「使う」ための紙。

平林 紙以外も含めると、最近凝っているのは包帯ですね。主に軍ものや、ファーストエイド・キットに入っているようなものを集めているんです。大抵昔のものは布で包まれているんですが、第二次世界大戦後になるとパッケージが紙になるんです。わりとシンプルな書体を使っていても、国や年代によって少しずつ組み方や選ぶ書体が変化したりするので、それが面白いんですよ。あとはやっぱり印刷とか、包み方とかに惹かれます。
安積 そういえば最近イギリスの医療品は、パッケージがビニールやプラスチックから紙に戻っているんです。それから、病院で処置のときに綿や注射器を置いて使うような小さなトレーも、撥水加工が施された紙製になっていましたね。最近怪我をして救急にかかったとき、思わず「うわ紙だ、欲しいなぁ」なんて考えながらトレーを凝視しちゃいました(笑)。血まみれなんですけどね。
平林 でも衛生面を考えると、確かにあれはきちんと処理しなきゃいけないものですよね。
安積 そうなんです。紙なら焼却できますし。さすがに汚れたものはリサイクルしないでしょうけど、すごく気を遣ってるんだなと思いましたね。プロダクトの世界ではハードなマテリアルのほうが信頼を置かれがちなんですけど、一概にそれがいいとは限らないですよね。以前、ピーチコートパチカで照明器具をつくったんです。パチカの照明では、枝の模様を加熱型押しして透光性の度合いを変えたんですが、光を透かしたら和紙みたいに風合いが出てよかったんですよ。紙は堅い素材と違って揺らぎや動きが生まれたり、影が映り込んだりしますよね。そういう要素をデザインに取り入れたいなと思っています。私が完璧にかたちを与えるんじゃなく、その後で自然に動いて勝手にかたちができるような。そのための素材として紙はとても魅力的ですね。
平林 そうですよね。実は最近パッケージの仕事が多いんですが、グラフィックで紙を選んだり調べたりするときとはまた少し違う見方をするようになりましたね。今まで紙は印刷したり綴じたりするものでしたけど、今の医療品の話のように、パッケージでは「使う」という要素が加わってくるので。でもそれがすごく面白かったんです。「ひとつ加工をすればプラスチックみたいに使える紙もある」みたいなことを調べたりして……そういうことは私今までやってきてないので、すごく楽しいですね。

 

自分の手で紙をつくる、紙を集める。

安積 私は昔から自分で手漉きの紙をつくるのが好きだったんです。高校生くらいから市販のキットを使ってつくっていましたよ。卵パックとか牛乳パックをいっぱいちぎって溶かしてミキサーにかけて、それをバットに入れて紙を漉くんです。だから私、紙漉き専用のミキサーを持ってるんですよ(笑)。その技術を応用して、大学院時代には幅1m、長さ5mぐらいの巨大な紙を漉いて作品にしたりもしました。紙枠を自分でつくって、紙が乾く前の段階で端を重ねていくと、乾いたときには紙同士が融合して大きな紙ができるんです。
平林 へええ。
安積 東京で建築模型をつくる事務所に勤めていた頃は、建築模型の外壁のタイルを紙で再現したりすることがあったんです。いっぱい紙を買ってきて。それをできるだけ無駄なく使った後、小さく出た欠片が捨てられなかったので、茶系、青系、赤系、緑系というように色ごとに分けて、たくさん引き出し開けたところに集めていました。それをちぎって紙を漉くときに使ったりとかしましたね。
平林 私も大学では店舗デザインを専攻していたんです。でも、大学3年生ぐらいの頃かな、途中でグラフィックをやりたくなっちゃって。
安積 そうなんですか。
平林 でもそのときは紙が特別好きということもなく、どちらかというとレイアウトの方が面白かったですね。イギリスのレコードのジャケットのデザインとかがすごく勢いを持ち始めていた時期だったので、それに惹かれただけで。実際に仕事を始めてから「こんなふうに紙を使うんだな」っていうのがようやくわかってきたようなものですね。で、家には小さい頃からの膨大な紙のストックがあって。私段ボールもたくさん集めていたんですね(笑)。
安積 へええ!
平林 クラフト紙もそうですけど、日本の段ボールと海外の段ボールって明らかに色が違いますよね。
安積 違いますよね。海外から段ボールを持ち帰っていたんですか?
平林 いえ、就職していた当時は海外の段ボールはなかなか手に入らなかったんですが、職場があった銀座にはアメリカンファーマシーっていう薬局があって。外箱を捨てているのを知っていたので「そうだ!」と思ってそこに行ったら、「好きなだけ持っていって!」って倉庫へ連れていってもらったので、何往復もして持ち帰りましたね(笑)。今もその段ボールは実家にありますよ。
安積 すごーい!その古びてきた紙もまたいいですよね。
   
安積 紙の色や質感だけじゃなく、印刷も国によって雰囲気が少しずつ違いますよね。印刷に関しては日本の繊細さもあるけど、ヨーロッパは印刷物の押され具合とか、厚みと文字とか、そういうものはすごく繊細なんじゃないかっていう気がします。向こうの歴史は羊の皮をなめした羊皮紙から始まって、聖書のような宗教的なものにすごく細かい装飾を施したりしていたじゃないですか。それが紙と活版印刷に変わっていって、その時代にもまた精巧に彫った人たちがいたことを考えると、よくこの労働が成り立っていたなあ、なんて思っちゃいますね。
平林 そういえば、彫りで思い出したんですが、ロンドンにスマイソン(smythson)って文房具屋さんがありますよね?そこでお店の方に、いろんな人がオーダーした昔のステーショナリーのサンプルを見せてもらったことがあります。本店の地下で、すごく分厚い古い、紐で綴じられてるようなファイルを5冊くらい。貝の何かをちょっとだけ紋章の一部にあしらったものだとか……。
安積 貝?螺鈿(らでん)みたいなものですか?
平林 パールみたいな、真珠を細かくしたような。そういうものを「もうできないんだよ」なんて言いながら見せてもらいました。彫りとかも尋常じゃないんですよね。すごく面白かったですよ。
安積 うわあ、そういう世界もあるんですね。いいこと聞きましたね、ちょっと下りていってみます、地下に(笑)。
──── 好きな紙や使ってみたい紙はありますか?
平林 うーん、その時々で違いますね。それなりに味がある紙も好きだし、真っ白い紙も好きです。ただ、雑誌の仕事をしていても感じるんですけど、紙の白さが意外と海外とは違うなと思いますね。なんだかどうしても日本って「綺麗にものができる」っていう方向にすべてが行くんですよ。
安積 そうですね、ランダムさとか揺らぎとか、そういった計測のできない世界を均一化しちゃう傾向がありますよね。きっとパーフェクショニストなんでしょうね。日本の紙は白が強いですか?
平林 白がね、強くないんですよ。青白くても印刷ができる紙は、海外の雑誌を見ていると意外とあるんですが、そういうのはほぼ日本にはないんです。
安積 ないんですか。うーん、そうなんだ。そういう感じで雑誌を見たことがなかったから、雑誌を見る目が変わりそうです。