紙をめぐる話|紙について話そう。 No.35
梅原 真
デザイナー、「笑い」キュレーター
中井希衣子
 編集者
原 研哉
 デザイナー、
TAKEO PAPER SHOW 2023
企画・構成

TAKEO PAPER SHOW 2023の開催に伴い、
今回は特別編をお送りします。
展示会の書籍内の鼎談「地の笑い」より、
「洗練を重ねてきた、本気のヘタ」の
一部をお読みいただけます。

2023年8月6日

初出:PAPER'S No.66 2023 秋号

梅原 真・中井希衣子・原 研哉

5年ぶりの開催となる竹尾ペーパーショウのテーマは「PACKAGING―機能と笑い」。パッケージという営みを、異なる二つの視点から見つめ直す試みです。「機能」では、テクノロジーや印刷加工技術の進展によって大きく変化している紙の近未来に目を向けるとともに、環境負荷や資源循環の観点から変わりつつある紙の役割に着目します。一方、「笑い」では、 パッケージの魅力に情緒の観点から迫ります。キュレーターに梅原真さんを迎え、思わず手に取ってしまうような力のあるパッケージを100点展示。
洗練やシンプリシティではなく、「笑い」というこれまでにない角度からパッケージの魅力を深掘ります。今回の鼎談では、展示物の選定にあたって大切にした点について、梅原さん、TAKEO PAPER SHOW 2023の企画・構成を務めた原研哉さん、編集者の中井希衣子さんが語り合います。

洗練を重ねてきた、本気のヘタ

中井 今回、展示する100点のパッケージの選定にあたってはどんな点を重視されたんでしょうか。
梅原 おそらくウェブ上だと6,000点くらい、ペーパー上だと2,000点くらい見させていただいたと思いますが、100点集めるのは本当に難しかった。選定した商品に確かな法則性があるわけではないのですが、一つ言うと頭の中に「ま」という言葉が浮かんでいたように思います。それは落語の真打のように修練されて研ぎ澄まされた間ではなく、むしろ全くそういうことを意識していないのに、たまたま間が合っているというファジーな感覚です。抜けのよさを感じる「ま」かもしれないし、ちょっと驚いたときの「ま!」かもしれない。何じゃこれと思ったときの「ま?」かもしれない。右から左まで幅広く集めているつもりですが、見る側の人格にかかっちゃっていると思います。
今回はたまたま僕がキュレーターを務めていますが、他の人が選んだら全く違う100点になっていたかもしれません。
最初に選んだものが抜けていったり、逆に最初に外れたものが最後の方で復活したり、相当に時間をかけてセレクトされていた印象でした。最終的には、厳選されたというよりも落とせなかった100点と言えるのではないでしょうか。
梅原 そうかもしれない。もう少しお話すると、ロングの笑いであるかどうかもポイントでした。初見のときは面白いけどもう一回見たらどうか。僕は笑いが先行してしまうとコミュニケーションが持続しないと考えているんです。1回買っても2回目買わへんでしょう。だから、じんわりとしたユーモアがベースにあって何回見てもニコッとするものを探していて、逆に言うとプロフェッショナルが笑いを獲りにいってるような作為を感じるものは、選ばないようにしていました。大手のデザイン会社でも、ちょいダサ、ダサカッコいいという印象を作るためにあえてデザインを少し崩すことがありますが、ダサさを纏わせることで人心を惑わせているようで好きじゃない。僕自身はもっと本気で「これがやりたいんやけどできないから、これなんや」ってことをやってきた。ただのヘタじゃない。洗練を重ねてきた、本気のヘタなんだと言えます。だけど、懸命に作ったものだけに人の感動が生まれるんじゃないかと思うんですよ。ユーモアという言葉の語源は“ヒューマン”です。人間的ということがなぜ笑いに近いユーモアになるのか不思議ですが、僕は計算されたデザインというよりも真摯に突き詰めていった結果、こうなった、というデザインに本質も笑いもあると思っていて。そういうことが今のローカルには足りないんじゃないかということも考えています。
本気のヘタを重ねてきた梅原さんだからこその笑いを純粋に抽出してきて、それを純粋にみんなで見るという展示なのでしょうね。僕もいろいろとパッケージデザインをしてきて、ピッチャーでいうところのコントロールは鍛えているような気もしますが、ショートスパンで考えたことは一度もありません。やっぱり、長生きしてほしいと思ってデザインするんだけど、だいたい叶わない。厳しいものだなと思います。笑いと言っても梅原さんが仰るように、衝撃的な笑いは瞬間的に消えるんですよね。親しみがあるとか、やさしそうとか、おいしそうとか、いろんな言葉がありますが、そういったあらゆる批評を全部かいくぐって何十年も平気で生き続ける芯の強さが笑いにはあると思います。鋭すぎるものは消費されるサイクルが早い気がするんですよね。尖りすぎていない、絶妙なさじ加減にとどめているものの方が長く飛んでいる気がします。上手に紙飛行機を折って、遠くまで飛ばしてやろうとしても案外上手く飛ばないけれど、適当に折ってフッと飛ばしたもの方がびっくりする程長く飛ぶこともありますよね。そういう時に、なんでこの飛行機は長く飛んでるのかと分析をしても分からない。そんなものは、たまたま。今回の100点も、ある種たまたまだと思うんですよ。長く飛んだ飛行機を梅原さんが捕まえてきたっていう感覚ではないでしょうか。
中井 1点ずつ解説があるわけではなく、単語がズラッと並んだ表を添えているところも印象的ですが、そこにも分析しないという意図が働いているんでしょうか。
パッと見たときに、この商品を梅原さんが選んだのはなぜなのか、答えを見るのではなく類推する方法として言葉のリストが出てきました。笑いという大胆でありながら繊細な現象を捉えるために、笑いの種と考えられる言葉を厳選し、それぞれの商品ごとにマーキングを行う形式にしようと。決して採点しているのではなく、SNSでいうタグ付けのような意味合いです。
梅原 分析をしているわけではなく、僕はこんな魅力を感じました、っていうひとつの感想として共有したいですね。人それぞれマークする言葉が変わるようなところもあって。「へえ、この人はそう感じたんや」という違いも含めて笑いかなとちょっと思ったりもするんです。
笑いとは言っても会場でみんなでワハハと笑ってほしいわけではなくて、どちらかと言うと真顔で見ていただきたい。これまで意識してこなかったポイントに対峙してやばい!って冷や汗をかくとか、自分はこういうことができているだろうかと黙考するとか、みんな真剣に、食い入るように笑いを見つめている。というような状況が生まれることが、この展示をやる意味なのかなと思っています。

 

この鼎談の全容は
TAKEO PAPER SHOW 2023
展示会書籍でご覧いただけます。

 
書籍『PACKAGING—機能と笑い』(美術出版社)
仕様:B5変型、320ページ
監修:株式会社竹尾
企画・構成:原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所
印刷:サンエムカラー
製本:篠原紙工
[通常版]背開き製本 4,400円(税込)
[特装版]ダブル背開き製本、中表紙をミシン目から開封する特別仕様 25,000円(税込)
※特装版は会場限定販売
 
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