生きているようなパッケージ |
もこもこ、ふかふか、にょろにょろ、つん。
モールドと言えば緩衝材というイメージをくつがえして、
有機的なパッケージに変身させた故・鹿目尚志さん。
鳥の巣など自然界の温かみをモチーフにしたという作品に、
鮮やかな色のシリーズが加わりました。
初出:PAPER'S No.62 2021 冬号
※内容は初出時のまま掲載しています
デザイナーの話
鹿目久美子さん(鹿目デザイン事務所)
父・鹿目尚志が「Mold」を発表したのは1988年。故郷である北海道の自然風景をイメージしながら膨大な量のスケッチを描き、スチレンボードや石膏を彫って、すべて手から生み出していった形です。「もっと進化させたい」「究極のモールドをつくりたい」と父は亡くなる直前まで言っていました。照明器具や食器と同じように、一家に必ずひとつあるような「究極の入れ物」にしたいと。父は2017年に永眠しましたが、その遺志を継いで、温かさや愛おしさを感じられるものに発展させたいと考えています。今回、竹尾さんにご相談したのは、この作品を色紙のファインモールドでつくり、量産できないかということでした。これまでもカラフルなモールド作品は制作していたものの、あくまでも成形した上から彩色するので色味が安定しませんでした。パルプに色を混ぜるなども試みてきましたが、難しい。しかし、パルプ自体が色紙になったことでパッケージの内側まで均質な美しい色になり、彩りや楽しさが加わりました。今後は照明器具など、父がやらなかったことにも挑戦したいと思っています。
製造担当者の話
小田枝里さん(栗原紙材株式会社 開発営業本部)
溶解、成形、乾燥。パルプモールドの製造プロセスは言葉だけで表すとシンプルですが、意外と職人的な感覚が必要です。水に溶けた繊維を金型に抄き上げるための吸引は何秒間か、脱水にはどれほど時間をかけて、どのくらいの水分量まで乾燥させるか。同じ作品をつくるにしても、ひとつひとつの工程の加減が天候や季節によって微妙に変わります。ようやくコツをつかんでも、原料となる紙を変えればまた一からの探り直し。「Mold」の場合も、まったくレシピのない状態から研究に研究を重ねてつくり方をつくっていきました。パルプモールドの製造は、まるで生きものを扱うように繊細で難しいんです。でも、だからこそ出来上がったものには自然物のように有機的なテクスチャーが生まれ、見るひとや触れるひとに温かな印象を抱かせるのかもしれません。時代の流れからなのか、環境負荷の少ないパルプモールドへの問い合わせは年々増えていますが、ファインモールドによる彩りの豊かさは、さらに多くの人々の目を惹きつけるきっかけになるはず。鮮やかな色のシリーズが加わった鹿目尚志さんの「Mold」の愛らしさは、その勢いをさらに広げてくれると思っています。