紙をめぐる話|コレクション No.33

靴の廃材を漉き込んだ
和紙製のシューズボックス

見慣れた箱の、見慣れぬ質感。これは、
「田中義久 東京デザインスタジオ 共同研究 vol.02」で
発表された、靴の廃材を漉き込んだ
和紙から作られたシューズボックス。
世の中のアップサイクルへの意識を高め、
廃棄物を出さない未来へ
皆で進んでいくための第一歩です。

初出:PAPER'S No.64 2021 秋号

デザイナーの話
田中義久さん(グラフィックデザイナー、Nerhol)

takeo paper show 2018「precision」で和紙への混抄の研究を重ねて感じた可能性が、今回の共同研究の発想につながっています。ペーパーショウでは土がテーマでしたが、まだまだ発見が生まれるような予感がしていて、その後も、波打ち際の流木やペットボトルを砕いて和紙に混ぜるような検証を続けていました。そんな経緯もあって、ニューバランスさんからお声がけいただいたときには、様々な素材で構成されているシューズだからこそ、大量に出る廃材を還元するサイクルが作れるかもしれないと自然に想像していました。
ただしシューズは耐久性の水準が非常に高いため、まずはシューズボックスへの活用を模索しました。やってみて分かったのは相性があるということ。水の中で漉く和紙に対して、廃材の比重が重すぎても軽すぎても沈んだり浮いたりして上手に混ぜ込めない。ゴム、リフレクター、メッシュなど色々な素材を試してみて、一番良かったのがスエードです。生物由来なので削っていくと繊維状まで細かくなり、うまく馴染ませることができました。生産性を考慮して基本的には機械で抄いていますが、エンブレムなど部分的には手漉きの特徴を活かしています。マーブル状の質感がある箇所がそれですね。また、強度については和紙だけでは足りないため、ダンボール(ファインフルート®)を採用しています。
回を重ねるごとに精度は高まっていますが、実用化に向けてクリアするべき課題はまだまだ山積みです。一方、さらに実感しているのが和紙のポテンシャル。ペーパーレスに向かう時代ゆえに身体性や物質としての価値が高まるのは当然として、今回のように単体ではなく他の素材を巻き込んでいく共存力に、伝統素材でありながら未来性を感じます。そんな可能性を引き出していくためにも、これからも実験を続けていくつもりです。

 

企画者の話
モリタニシュウゴさん(東京デザインスタジオ ニューバランス)

ニューバランスは、サスティナビリティをテーマにした様々な取り組みをグローバルに展開しています。同時に東京デザインスタジオでは、ローカルできること、小規模だから感じられるリアリティを大切にしていて、今回日本ならではのテーマを田中さんと探るうちに、自然と和紙にたどり着きました。すべてが初めてのことだったので開発には苦労もありましたが、SNSに掲載すると海外のカスタマーから大きな反響がありました。シューズボックスはストリートファッションのファンの間では重要なアイテムなのですが、そこにアップサイクルの視点を取り入れたことが新鮮だったようです。世界の人々はその地域の「らしさ」に特に興味があるため、和紙を使ったことも非常にポジティブに受け止められました。これらの活動は長期的に続けることが大切になります。今回のプロジェクトを「研究」と呼んでいるように、まだ結論は出ていませんが、そのプロセスをお客様とも共有して一緒に考えることが重要なのではないでしょうか。課題は多くありますが、難しくなりすぎず、自然と参加したくなるようなアプローチを探っていきたいと思います。

 

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