紙をめぐる話|紙の研究室 No.11

ミクロな折り紙
─血管内で広げられる
医療器具

いま、「折り紙」が宇宙工学や医療の分野で盛んに応用されているそうです。一体どのように使われ、どのような効果を発揮しているのでしょうか?前号の『PAPER’S』に登場された杉江理さん、田中浩也さんと共に竹尾本社で公開トークを行い、折り紙の医療への応用について解説された東京大学生産技術研究所竹内昌治研究室、栗林(繁富)香織さん(現 北海道大学大学院情報科学研究科)にお話を伺いました。

初出:PAPER’S No.42 2012 冬号
※内容は初出時のまま掲載しています

ステンレススチールによる折り紙ステントグラフト試作

形状記憶合金ステントグラフトの自己展開の様子

折り紙を医療に応用した理由は?
折り紙は、折り方の組み合わせ次第で、一枚の紙から自在に複雑な構造物をつくることができます。近年、この仕組みを工学に応用する動きが出てきているのですが、私はこれを医療でも活かせるのではないかと思いました。たとえば医療器具を血管に挿入するとき、「折りたたむ」という仕組みを応用すれば、それがより簡単に行えるようになるはずだと考えました。また、二次平面を立体化できる特徴を利用すれば、サイズの大小だけでなく形そのものを変えることさえできます。

折ることでどんな効果が得られますか?
具体的には「ステントグラフト」と呼ばれる、主に動脈瘤の治療に用いられるチューブ状の医療器具に応用しています。動脈硬化により狭くなった血管に挿入して血管を広げる治療や、動脈瘤によって破裂しそうな血管を保護するために使われます。チューブに折りのパターンをつけることで、小さく折りたためるようになり、従来よりもスムーズに血管に挿入することができるようになりました。また最近、「細胞の折り」についての研究を始めました。紙のように薄くしなやかな細胞膜を、折ることによって必要な形の細胞に変え、再生医療に活用するという研究です。

動脈瘤

ステントグラフト

大動脈

出典:www.medgadget.com

どういう折り方をしていますか?
ステントグラフトにおいては、下図のような三角形の折り線パターンの組み合わせが基本形です。 折りたたんだり、展開したりすることで、円筒の径と長さを自由に変えることができます。この方法で折りたたんだ円筒は、展開時に比べて半径が約半分にまで小さくなります。

折り紙ステントグラフト円筒の
基本折りパターン

素材は何を使っていますか?
研究開発段階では、大量のプロトタイプを作るために紙を使っています。実際のステントグラフトに使っている素材は、医療現場で既に使われているステンレススチールや形状記憶合金です。上図モデルは形状記憶合金で作製したもので、小さく折りたたんで体内に挿入した後、特定の温度になると自然に形が膨らみ始め、その機能を発揮します。最近では、これまでのような人工素材ではなく、自分が体内に持っている細胞を使って同様の医療器具を作製することにも挑戦しています。

細胞を用いた折り紙
※μm=ミクロン、1μmは1mmの1000分の1
(日本人の髪の毛の直径は100μm程度)


参考文献
K. Kuribayashi, et al., Materials Science and Engineering: A, vol. 419, pp 131-137, 2006
栗林香織, 数学セミナー, vol. 48, pp 40-44, 2009
K. Kuribayashi-Shigetomi, et al., Origami5, pp 385-392, 2011
K. Kuribayashi-Shigetomi, et al., PlosONE, in press, 2012

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