紙をめぐる話|紙について話そう。 No.26
三浦公亮
宇宙工学者
山口信博
 グラフィックデザイナー

宇宙工学とグラフィックデザイン。
まさに宇宙と地上との距離ほど遠く
はなれた仕事のようにも感じられますが、
実は共通する研究テーマを持つおふたり。
それぞれの視点と接点を語り合いました。

2018年4月23日

初出:PAPER'S No.57 2018 夏号

三浦公亮・山口信博

山口
私は普段、デザインと共に「折形」という贈り物を和紙に包み、水引きで結び贈る日本の伝統的な礼法を研究しています。そのきっかけとなった伊勢貞丈の『包之記』には様々な折形の手法が載っているのですが、そこで使われる紙の寸法の比率がほぼ1:√2か正方形です。折形は室町時代に誕生し、『包之記』は江戸時代に書かれたものです。今から数百年前の人たちの営みに数学的な思考が秘められていることがとても面白いと思っていて、どこか三浦先生のお仕事にも通じるように感じています。
三浦 それは興味深いですね。私もかつてモナ・リザの絵に数学的な法則を見つけたことがありました。モナ・リザの着ている服は袖に皺が寄っていて、その皺をよく見ると吉村パターン(ミウラ折りの原点)になっているんです。どこまで意識していたかは不明ですが、20世紀の工学者が発見した理論を、ダ・ヴィンチはとっくの昔に絵で表現していた。驚くべき観察眼ですよね。山口さんがおっしゃる通り、一見関係のなさそうなところに数学的なものが隠れていて、そこから仕事のひらめきが生まれることも多々あるんですよ。

 

潜んでいる理を見いだす眼。

三浦 ミウラ折りとは、紙の対角線部分を左右に引っ張ることで、一瞬にして広げてたためる折りの構造です。私はかつてNASAでロケットなどの構造物の強度について研究していましたが、そこでは壊れにくいものをつくるために、壊れるという現象の仕組みを解析していたんです。そのときに気づいたのが、円筒を縦に潰すと菱形のような模様が規則的に並び、しかも強度が増すということでした。一見混沌のように思える破壊にはシステムがあり、補強にもつながる。それは例えばコピー用紙を無造作に丸めても同じで、物体というものは縮むときにエネルギーができる限り小さくて済むような形に変容するので、ぐしゃぐしゃの中にもある種の法則が生まれるんです。このメカニズムを数学的に突き詰めて、最小限の力で畳める折り目を紙全体に連動させたのがミウラ折りというわけです。
山口 通常は負のものとして扱われる破壊を、新たな形として捉え直したわけですね。その着眼点に驚かされます。さらにそれを飛躍させて折り紙とつなげた。折り紙に親しみのある日本人だからこそ生み出しえた発想だと思いますが、普通はツルのような身近なものを紙を折り再現してみようと思う程度で、まったく異なる次元に結びつけることは簡単じゃないですよね。そういった発想はいったいどこから湧いてくるのでしょうか?
三浦 大事なのは視点をずらすことですね。ミウラ折りも、潰れた円筒に現れた法則性を筒の外側だけではなく、内側から観察してみることで生まれたんです。もうひとつ言えるのは、研究費の大小はひらめきに関係がないってことでしょうか(笑)。大抵は遊びの中から出てきますから。異ジャンルの本を読んだり、自然の中に身を浸したり、好きなことを楽しんでいるうちに思い浮かぶというか、まあ道楽ですね。いってみれば、私は一生を道楽に費やしているわけです(笑)。
山口 先生のご著作には数理という言葉が何度も出てきますよね。この世界には数のことわりが潜んでいて、その秩序を見つけたとき、私は美しさを感じます。例えば折形に現れる三角形の面の対比がきれいだったり、エッシャーやマックス・ビルの作品の源に数学的な感覚が見て取れたりします。今、玉しきという紙の開発に携わっていますが、そういう感性や視点を、もっと紙やデザインのフィールドに取り入れられないかとよく考えています。
三浦
数理に美しさを感じるのは、突き詰めるとシンプルになるからだと思いますね。ミウラ折りも非常にシャープでミニマムな構造です。歴史的にも、そういう簡潔な法則を導き出せた場合に、理論としても表現としても後世まで残るファンダメンタルなものになっているのではないでしょうか。
 

 

形ではなく、運動を折る。

三浦 今日はミウラ折りをつくるための道具を持ってきました。宇宙工学などに応用するだけではなくて、やはり折り紙のサイエンスの基本として、子どもたちでも簡単に折れるような道具がほしいとあれこれ考えながら手づくりしてみたものです。
山口 ここに付いているのはレゴブロックですよね、なぜレゴブロックを?
三浦 レゴブロックを二つ直角につなげると、正確なコーナーができます。ミウラ折りで難しいのは、90度ではなくて非常に微妙な角度でジグザグに折らなければならないところ。片方が87度でもう片方が93度、要するに垂直から3度傾いた角度を並行の間隔で折れるように計算して、レゴブロックを配置しています。ミウラ折りを何の基準もなく折るのはほぼ不可能なので、何とか道具が作れないかと悩んでいる最中に孫のレゴブロックが目にとまり、こっそり拝借しました(笑)。でも、ただ折っただけではミウラ折りにはなりません。大事なのは折りの法則に従って、山谷を連動させること。山折りと谷折りの数の比率が3対1になっていて初めて、全体をオートマチックに折りたたみできるミウラ折りになるんです。それはちょうど自然の山脈が連なると、そこに交わる尾根筋と谷筋が決まってくる現象に似ています。
山口 ということは、例えば飛行機から地上を見下ろしたときの山脈の景色は、すべてミウラ折りといえませんか?地表と地表がぶつかって圧力がかかり、地面が隆起し、山と谷が発生する。そうして生まれた地球の皺もミウラ折りであると。
三浦 実際に衛星で見てみると、物事はそう単純ではなかったりしますね。風雨などの外的な影響によって山の形は変わってきますから。ただ、基本の仕組みとしてはそうだといえるでしょうね。
山口 今までのお話を伺っていて、折形と通底する部分を感じました。それは、折りが生まれる過程では、運動や連続性が大切になるということです。ミウラ折りの開閉が3度の角度のずれの連なりと、全体の連動によって生み出されているように、折形も様々な折りを連ねていくことで奥行きをつくっていく。それによって贈る側から受け取る側に続いていくものが生まれる。常々思うのは、折形を解き開くことは反復する行為だということです。贈り物を受け取った人は、贈り手の折り畳み、包むという、一枚の紙に対して働きかけたプロセスをなぞることになります。そこで贈り手の繊細さであったり、力強さや人柄など身体性と精神性も含めて受け取る。折形というのは単に物のやり取りや、できあがった形の話ではなくて、そんなインタラクティヴで動的な交わりなのかなと。
三浦
分かりますね。自然の山が隆起していく仕組みもそうですし、先ほどの破壊もそうですが、背景には常に運動がある。ミウラ折りというのは弾性体のもつ基本的な形状ですが、弾性が人の丁寧な所作を介することで精神的なものとして語られたのが折形なのかもしれませんね。
 

 

「ああ、だめだ!」をやり続けると。

三浦 ミウラ折りは平面の問題の答えですから、空間を包むことはできません。宇宙では、望遠鏡のカバー、月面で展開できる基地など、畳める空間構造が必要です。ミウラ折りの原理を平面だけではなく立体として何かを包み込める形状に使えれば、もっと用途が広がるのではないかとずっと考えていました。ではどうしたらいいのか。そのヒントになったのが鏡です。ミウラ折りを鏡の上に置いてみてください。同じ形、つまり鏡像ですから左右が反転して映し出されて繋がり、隙間の無い立体になっていますよね。この形を応用すれば、容量をもちながら折り畳める構造体ができるはずです。いわば四角い筒が、縦に畳めるのですから、変わっていますよね。宇宙だけでなく、チョコレートを入れる箱などにも使えば、隙間なく並べて、食べた後に縦に畳める、不思議なパッケージになります。(記:舘知宏氏との共同研究)
山口
何気ないようで、もの凄く大きな発見ですね。この形はもう具体化されているんですか?
三浦 まだです。このバリエーションが、水星の空中基地としてNASAのプロポーザルが出ています。こういう研究の背後には、デザイナーの皆さんがよくご存じのエッシャーの画で象徴される、繰り返しパターンの数学があります。実は二次元の繰り返し模様のパターンというのはすべて解明されていて、全部で17種類しかないんですね。そういう対称性の美しさの数理というものに関心がありますから、ふとしたときに現実の問題とむすびついて、ひらめきが生まれるのかもしれません。鏡は一番簡単な操作ですが、他にもすべり鏡映という操作もあります。鏡映がずれながら平行移動しているパターンのことで、植物の葉の生え方なんかがこれに当たるのです。
山口 例えばパウル・クレーって、世の中ではかわいい絵を描いている人だと思われがちですが、実際には緻密に葉っぱの構造を分析したりしていて、対象から常に数学的な法則を見つけ出そうとしているようなところがありますよね。三浦先生があらゆる物事を細やかに観察されているように、我々デザイナーももっと世界を深く見つめて、多様な事象を吸収、探求しながらものをつくる必要があると強く思います。ちなみにミウラ折りと鏡を組み合わせたのは、偶然置いてみたことがきっかけだったのでしょうか?
三浦 いえ、皆様と同様に、頭の中はものすごくごちゃごちゃで、整理できていません。たまたま問題に行きづまったとき、そしてある種のプレッシャーがかかったとき、偶然すっきりした形と筋道が見えてきます。しかし、頭の中でうまくいっても現実ではほとんど「ああ、だめだ!」となることが多いですね。それを実証するために実際にモデルを作ります。可能性のきざしがわずかにでも見えれば、何度でも試してみます。私の指標として、正しい答えである証拠は、数理的な証明よりも、かたちや式の美しさとしています。自然はきたない形を好みません。

 

手で折ることは、心を込めること。

三浦 ミウラ折りを折るものとは別に、三つ折りのための道具も持ってきました。手紙を封筒に入れるときに内三つ折りをうまく折れなかったことって、きっと誰もが一度は経験したことがありますよね。二つ折りは簡単なのに、三になったら、どうしてと思います。いい加減な折りのまま送ってしまっては失礼にあたりますし、機械に折らせてしまっては味気ない。やはり自分で書いた手紙は、心を込めて自分の手できちんと折りたいものですね、そんなときに役立つ道具を考案してみたんです。
山口 私もかつて、三つ折りの手がかりになる目印を入れたレターヘッドをデザインしたことがありますが、まさか道具があるとは思いませんでした。これならどんなレターヘッドでも折ることができて、素晴らしいですね。実は贈り物って、剥き出しで差し上げても構わないものなんですね。それなのに折形では、わざわざ和紙を準備し、丁寧に左右を折り重ねるなどの手間ひまをかける。それは、その時間と所作によって贈り物に心が宿ると考えているからです。日本語に「折り目正しく」という言葉があったり、千羽鶴に鎮魂の思いを託したりすることもそうですが、紙を折るという行為の根本には、精神性や願いのようなものを込めるという意味があるのだと思います。それにしても折りには色んな可能性がありますね。まさか宇宙工学を専門にされている三浦先生が手紙のための道具までつくっているなんて想像もしていなかったので、心を打たれました。
三浦
今回の山口さんとの対談にあたって折形について自分なりに調べているときに、そういえば自分も似ていることを考えていたなと思い出して、この道具を持ってきたんです。確かに私の仕事は宇宙を領域としていますが、私の持っている知識や経験が身近な暮らしの中で活かされたときには、本当に嬉しく思うんです。