紙をめぐる話|紙について話そう。 No.16
豊田啓介
建築家
岡室 健
 デザイナー

立体素材として紙を見つめる豊田さんと、
平面媒体として扱うことの多い岡室さん。
建築家とデザイナー、
それぞれの眼差しが混じり合うことで、
次々と新しいアイデアが生まれてきました。

2014年8月1日

初出:PAPER'S No.47 2014 秋号
※内容は初出時のまま掲載しています

豊田啓介・岡室 健

岡室 僕は日頃、広告の仕事を通して紙に触れる機会が多いのですが、もっと色んな紙を使いたいと思うことがあります。ただ白い紙に印刷するだけじゃなくて、色紙でカラフルに彩ってもいいんじゃないかとか。
豊田 広告の世界だと、紙はやはり印刷される対象なんですか?
岡室 そうですね。紙を使い分ける仕事もありますが、いわゆるマスメディアではあまりありません。それはもったいないなと。
豊田 紙の加工方法もどんどん増えていますからね。レーザーカッター的なものだけでなくて。
岡室 そもそも紙媒体自体が減っていることも残念です。
豊田 山手線の中吊りもいずれ全部デジタルサイネージになるみたいですね。
岡室 デジタルにも良い部分はたくさんありますが、だからといって紙素材が消えてしまうのは惜しい。手触りがよくて、でもすぐに破れてしまう、そういう素材の方が情報に愛着が湧いて、より深くコミュニケーションできるんじゃないでしょうか。
豊田 樹脂や布とはまた違う多様な風合いが紙にはありますからね。
岡室 はかない感じがありますよね。
豊田 例えばグニュッと立体成形できる紙があれば、表現の幅も広がりますね。そもそも紙って3Dプリントできるはずなんです。樹脂として固まっていない状態で出せば積層した立体物が作れる。つばめの巣もいってみれば3Dプリントの紙じゃないですか。パルプを噛み砕いて積層させてレイヤーにしている。あれを機械でできるんじゃないかと。
岡室 新しい紙が出てくれば、新しいコミュニケーションの方法も生まれるはずです。最近は紙に電気を通して光らせるポスターもありますし、他にも人が通りかかった時にひらひら動き出す磁気のポスターなんかも実現できるかもしれない。紙の良さを改めて感じてもらうためにも、これまでにない色やかたちを試してみることが必要だと思うんです。

折り紙からORIGAMIへ。

岡室 今回、見本帖本店で「折り紙の呼吸」展をやって「折り紙は第2フェーズに入った」と感じたんです。紙を折って遊ぶ「折り紙」じゃなくて、ものの考え方としての「ORIGAMI」が、これからもっと身近になるんじゃないかと。
豊田 わかります。「これも折り紙なんだ」というものが様々なスケールとレイヤーで日常に入ってくると思います。手で作る折り紙だと大きさやかたちが限定されますが、顕微鏡でしかみえない微細な構造とか、都市的に巨大なサイズになった時に初めて意味が出てくるものがきっとあるはずです。折り紙的に形成されるかたちが持つ合理性が、どんな効果をもたらすのか、あるいは数学の理論に落とし込んだ時にどうなるのか、そんな話が広義の「ORIGAMI」として呼ばれ始める気がします。
岡室 巨大な紙の構造体が公園に置かれていたら面白いですよね。紙だから子供も怪我しないし、ジャンプしたらゆがむし……。
豊田 不思議なフカフカ感ですね。
岡室 紙だから生まれる可能性ですよね。ドームを作ってみるとか。下に入って伸ばしたらかたちが変わって面白い。50×50mくらい大きな紙を開発したら新しいことができるかも。
豊田 その挙動を見てみたいですね。これまでにないスケールで紙の力を体感できると思います。
岡室 今は印刷機のスケールに紙を合わせているので、建築のスケールで紙を作ると面白いかもしれない。
豊田 興味がありますね。先ほどの3Dプリントの話のように「繊維を固めたマテリアル」として紙を再定義すれば材料としての可能性も広がりますし。紙って水を吸うと膨れて全体がゴワゴワのかたちに変わりますが、一本一本の繊維の単位は変わらないんです。例えばこうしたマクロとミクロの挙動の関係性が解明できれば、巨視的な紙の話もできるようになるかもしれません。
岡室 なるほど……。紙の見方が僕と全然違いますね(笑)。言葉にしても、グラフィックデザイナーは「挙動」なんて使いませんから。素材としての付き合い方がまるで異なる感じ。
豊田 職業柄、まず分子構造とかに興味が湧きますからね(笑)。そういう意味でも折り紙って工学的に応用範囲が広いんですよ。例えばミウラ折りの構造を応用すれば紙のテーブルも作れるはず。持ち運びできて、取り出すとパッと広がってテーブルになるような……うん、できる。帰ったら試して報告します(笑)。
岡室 早いですね(笑)。僕もグラフィックデザインの立場から、これまでにない紙の使い方をいつも探しているんです。豊田さんたちが研究で成果を出したものを、誰もが関われる日常に落とし込むのが、僕の役割なんじゃないかなと。

紙はデジタルの救世主?

岡室 コミュニケーション媒体としての紙はどうなるんでしょうね。なくなるか、なくならないか、なんて議論もありますが。
豊田 うちの事務所は建築図面をすべてコンピュータで描くので「紙に印刷なんてしないんじゃないですか」ってよく言われるんですが、なんだかんだと必ず紙に印刷した図面に赤ペンを入れるような工程は多いです。紙として見た時に初めてチェックできることがいっぱいあるので。理由はわからないけど、コミュニケーションできる情報量が何倍も違う気がするんですよ。
岡室 グラフィックの仕事も同じですね。画面上だと見落とすことがたくさんある。
豊田 不思議なフカフカ感ですね。
岡室 同じ小説を読んでも電子書籍と紙の書籍では印象が変わりますし。海外出張先でも結局印刷した図面に赤ペンを入れて、それを写真に撮って送るなんていうベタな方法を使っています。解像度だけでいえば画面の方が明らかに優れていたりしますけど、紙の方がいい部分もやっぱりあるんですよね。
豊田 その挙動を見てみたいですね。これまでにないスケールで紙の力を体感できると思います。
岡室 だからこそ……これからも紙はなくならないかもしれませんね(笑)。
豊田 そうかもしれませんね(笑)。紙を紙のまま使うのではなくて、それこそiPadのディスプレイを紙にするなんてことも考えられます。紙の素材感で、紙に色素を抄き込んだディスプレイがあったら凄そうですね。画像や文字はちゃんと可変していって。これからデジタルの画面はガラスでなくて紙になるのかもしれない。紙に描く時って微妙にペンの先がつぶれていく感じがあるじゃないですか、あれがガラスだとないですもんね。
岡室 あの感覚たまらないですよね。あれがあるからきれいに描けるというか。コンピュータが紙でできるってワクワクしますね。見てみたい。
豊田 集積回路が紙でできたら面白いですよね。次のアップルの救世主は、ひょっとしたら紙かもしれない。
岡室 ああ……それいいですねえ。
豊田 アップルに怒られるかもしれないですが。勝手に決めるなって(笑)。

曖昧で予測不能。それが紙の魅力。

岡室 異なる色がたくさん並んでいる様子にワクワクするんです。見本帖本店で開催している「折り紙の呼吸」展で、NTラシャの全120色をミウラ折りで一覧させるインスタレーションを考えたのも、そんな興味が発端です。ペーパーショウの豊田さんの作品「TONE OF GRAVITY」もNTラシャですよね。ぜんぜん違う色を組み合わせているのに、引いて見ると物凄くきれいな色の流れになっていて感銘を受けました。
豊田 あの並べ方は遺伝的アルゴリズムという手法を使って生成させているのですが、実際に並べた時にどのくらいきれいに見えるのか当初は正直予測がつきませんでした。でも実物を組み立ててみると、部分を見ながら手で並べたのでは決して生まれない組み合せになっていて面白かった。コンピュータと紙の関係についての新しい可能性を見ることができた体験でした。
岡室 立体になっているのがポイントですよね。同じ色でも光と陰と色が混ざり合うことで変化していく感じ。試作はたくさんされたんですか?
豊田 相当な数を検証しましたが、実物を作ってみると湿気でたわんでしまったりして、予想外の挙動だらけでした。でもそういう、いくらコンピュータで計算しても計算外のことが起きてしまう曖昧な所が紙の面白さだと感じましたね。
岡室 紙って時間と空気で変化しますよね。そういう予測不能な所がいっぱいあるのが魅力で、それを生かしたプロダクトができるんじゃないかといつも考えているんです。たとえば伸びる紙とか。紙を編み込んで縮めていって、手で押すと反動で伸びていくような。
豊田 楽しそうですね!ペーパーショウのもうひとつの作品「Paper Reef」も元々は同じような発想だったんですよ。好きなところを押すと入道雲みたいなかたちになって紙が伸びるような仕組みを作ろうと思っていました。時間の都合もあってペーパーショウでは実践できなかったのですが、理論的には可能なはずなので近々実現させるつもりです。

 

空き箱遊びから建築家へ。

岡室 豊田さんは小さい頃から工作が好きだったんですか?
豊田 親がおもちゃを買ってくれない家だったので、遊ぶものといえば空き箱しかなかったんです。マーガリンの空箱とか。たまにサランラップの芯なんかがあると貴重で(笑)。それを使ってどう遊ぶかいつも考えていましたね。だから紙はずっと親しんできた素材なんです。
岡室 やっぱり幼少期の経験は大人になってからも影響しますか。
豊田 やっぱり気付かない所で大きいんじゃないかと思います。
岡室 僕の場合は、印刷工場の廃材をくれる親戚がいて、様々に印刷された紙がダンボールいっぱいに届く環境で育ったんです。それを切ったり貼ったりして遊んでいました。そうか、僕は平面で、豊田さんは立体だった。その違いが今も出ているんですね。面白いなあ。今ものを作るときには、まず構造から入るんでしょうか?
豊田 構造というのかな?情報とものの境界が曖昧になっていく関係性を考えるのが好きですね。ものがものだけでなく、情報が情報だけでないという状態。紙もそうですね。「TONE OF GRAVITY」も紙の曖昧さが独特の構造を許容してくれるから組み立てられています。あれ、例えばステンレスやプラスチックシートでは組み立てられないんですよ。紙の厚みと、変形の程度と、レーザーの幅との間に起きる数式化できない誤差を、紙という素材の曖昧な挙動が相殺してくれる。計算や情報だけではなく、物質だけでもない微妙な組み合せの部分がかたちになる繊細さが面白いなと。
岡室 例えば好きな建築素材ってあるんですか?
豊田 通常の建築では、工学的にすべての挙動が計算できることが大前提にされます。でも、もっと動いてもいいんじゃないか、情報としても、ものとしてもアクティブでいいんじゃないか、というのが僕の興味です。だから紙みたいに曖昧な素材を建築に用いるのも面白い。正倉院ではないですが、ミクロなレベルで湿度によってわずかに隙間が空いたり閉じたりして換気する仕組みも紙を使えばできるはずですよ。
岡室 家を広げるために壁を部分的にビョーンと伸ばす、なんてことも……。
豊田 アリだと思います。ジェスチャーで操作して家を動かすとか。こういうことって、ぜんぶ遊びから分かることなんですよ。僕らが様々な展覧会に参加するのも、最後は建築につながると思っているから。真面目に遊んでいるんです。
岡室 面白いなあ!グラフィックの仕事でも最近は立体を扱う話も出始めてきていますし、僕は広告代理店にいながら紙を平面に留まらない素材として考えたいと思っているので、いつかどこかで仕事をご一緒できればいいですね。
豊田 ぜひとも声をかけてください。あ、今ちょうどうちの事務所の二階が空いているので、引っ越してきたらいかがですか(笑)。
岡室 本気で考えるかもしれません(笑)。