紙をめぐる話|コレクション No.24

伝統と未来を結ぶかたち
川越氷川神社
十二色の「結び」御朱印帳

一見すると華やかで現代的な川越氷川神社の御朱印帳。
しかしその造りによく目を凝らし、
由来に耳を傾けてみると、そこには古くからの信仰や
技術を未来に結び合わせるための知恵や思いが、
驚くほどたくさん込められていました。
 
初出:PAPER'S No.55 2017 夏号

クライアントの話
山田 禎久さん(川越氷川神社 宮司)

今から約1500年前に創建された川越氷川神社は、お祀りしている五柱の神々がご家族とご夫婦であることから、縁結びの神様として長く信仰を集めてきました。「むすび」とは単に出会いのことだと思われがちですが、元々は「出会った先に新たなものを産み出す目に見えない力」などの意味を表します。その本来の意味を伝えるきっかけにしたいという思いから、「むすび」をモチーフにした独自の御朱印帳をつくりました。表紙の結びの形は毎月お分かちしているお守り「まもり結び」に由来し、一年を平穏に過ごしていただけるようにと、年中行事を表現しています。中面だけでなく表紙の素材にも紙を用いたのは神社として極めて自然なことで、紙垂(しで)や大幣(おおぬさ)に代表されるように、紙、特に白い紙は清らかさを象徴する媒質として昔から神社と深い関わりをもってきました。また朱は生命力を象徴するとともに邪気を除ける色でもあり、白い紙に朱の判を押す御朱印は、神社にとって清らかさの極まったかたちといえます。近年、御朱印帳が若い方々を中心に広まり神社の参拝者が増加していますが、この現象が紙を媒介にして起きているというところが、とても日本らしいと感じています。新しい御朱印帳を機会に全国各地の神社に足を運ぶ方がさらに増え、日本人が古くから守ってきた神社ならではの清らかな空気や精神を感じていただければ何よりも嬉しく思います。

 

デザイナーの話
山口信博さん(グラフィックデザイナー)

この新しい御朱印帳には、伝統を後世につなげていきたいという思いが様々なかたちで織り込まれています。表紙の素材もそのひとつです。昔から日本人は弱いものをむやみに強くするのではなく、その弱さに向き合って丁寧に接するという暮らし方をしてきました。そんな精神性を大切に残していきたいと考えて、意識的に紙を使っています。12の色にはそれぞれ意味があり、一月は寿ぎの朱色、三月は桃の節供の桃色など月ごとの行事に呼応しています。使用紙にタントを選んだのは、豊富な色数からそれぞれの月に最もふさわしい色を探り当てたかったからです。製本はホローバックと糸かがり。朱印帳の開きがいいという機能性はもちろんですが、特に糸かがりは、糊を使わず一本の糸で通っている綴じ方が「むすび」の信仰につながると考えて採用しました。版式はオフセットではなく凸版にすることで、全体に厚みが出てふくよかで優しい印象に仕上がっています。糸かがりも凸版も現代では徐々に姿を消しつつある加工技術です。しかしたとえ少量でも仕事を発生させ続ければ、伝承の一助になり得るかもしれない。それは古からの信仰を真摯に守り続ける神社の姿勢とも重なりますし、一人のデザイナーとしてもあえて時間や手間をかけてつくるだけの意味が充分にあることだと考えています。

川越氷川神社に併設されている「むすびcafé」の贈答用パッケージにもむすびのモチーフを展開。一枚一枚紙の糸が抄きこまれ、同じ柄がひとつもない「てまり」を用いることで、それぞれが唯一無二であるという縁の尊さを表現している。
使用紙:てまり 朱 四六判Y目 90kg