紙をめぐる話|コレクション No.26

ikue
幾重にも束ねられた、
可能性の光

重厚感がありながら軽やかな佇まいのジュエリー。
実はこれは、古くより書物を瀟洒に彩ってきた加工技術
「三方金」で作られたアクセサリーです。
金箔で縁取られた紙を幾重にも束ねた「ikue」は、
伝統の継承にとどまらず、紙が紙の領域を超えて
輝きうるという可能性の光を幾筋にも放っています。

初出:PAPER'S No.57 2018 夏号

デザイナーの話
横山 徳さん(株式会社TANT アートディレクター)
原田元輝さん(株式会社TANT プロダクトデザイナー)

三方金の煌びやかさと、紙の軽やかさ。各々の素材が携える固有の特長を融合させたのがikueです。プロジェクトの発端は日本の優れたものづくり技術を活かした新規事業を提案するコンペティションへの参加。無限にある可能性を暗中模索していく中で紙のジュエリーという形に行き着いたのは、古来より聖書などを彩ってきた三方金の伝統を未来に繋げたいと思ったこと、そして本来は金属製であるプロダクトが紙製になるという発想の飛躍が驚きをもたらすはずだと考えたからです。輸送のしやすさや付加価値の高さなどビジネス面での優位性も熟慮しました。使用した紙は、ジュエリーとして金属にも引けを取らない華やかさを体現できる多彩な色と豊かな質感を兼ね備えたサガンGAジェラードGAタント。 身に付けた時に紙が主役として映えるよう、金具はできる限り存在感を消す作りに徹しています。開発過程では篠原紙工さんが業界の枠を超えるアイデア、想定以上の精度を次々と実現してくださり、紙に対する感覚が一変しました。商品化に先んじて出展したメゾン・エ・オブジェでも「これが紙なの?」「軽い!」という声が寄せられました。ikueがジュエリー売場に並んだ際、紙好きの方々は勿論、普段あまり紙に馴染みのない人たちにも自然と手に取ってもらえるような、紙の価値観を更新するプロダクトとして世の中に広まっていけば幸いです。

 

製造担当者の話
篠原慶丞さん(有限会社篠原紙工 バインディングディレクター)

その手があったか、と思いました。日頃から紙の新しい価値を探りながら本作りをしていることもあり、話を聞いて直感的に共鳴と新鮮な可能性を感じたんです。ただ一方で、実現した際に自社の工場がフルに稼働する商品にはならないだろうという現実的な考えも頭をよぎりました。しかしこの商品の開発に貢献できるのは業界でも篠原紙工しかないと腹をくくりました。試作にあたっては、まずは形にすることを最優先。最初から生産性や技術的な実現性を考えると手が止まってしまうので、それはひとまず横に置き、とにかく具体化してみる。形ができたら強度を、次に精度をと、課題を丹念に解決していきました。特に苦労したのが紙の背に塗る糊です。ふくよかなikueの造形美は束ねられた130枚ほどの紙が均一に開くことで保たれています。しかし紙の色によって糊の染み込み方が微妙に異なるため、開き具合が安定する糊の選択とテストに時間を費やしました。他にも金箔押しの効率化、精緻な断裁方法など小さな製品の中に無数の試行錯誤が凝縮されています。このプロダクトが完成に近づくにつれて、印刷や製本以外の業界でも我々の経験や知識を生かせるはずだという日頃の思いが、確かな自信に変わっていきました。踏み出す勇気と丁寧な検証を両翼に今後も挑戦を続けていきたいと思います。